僕は新卒で地方の出版社に入社しました。
そこでWebディレクターをしていたのですが、当時「クロスメディア」という言葉が生まれ、雑誌とWebの連携について議論されることが多くありました。

雑誌出版の現場にも携わっていたので、雑誌作りについては間近で見ることになります。
編集者の考え方、編集ポリシー、広告、販促活動に至るまで学べる環境です。

そこで雑誌を作る、という事について漠然と理解し、自分の専門分野であるWebとの違いも理解する訳ですが、その時の出版の現場が今に生きているな、と感じています。

今は個人でSEOのサービスを提供しているのですが、いくつかのサイトでSEOをしていて出版社勤務時代を思い出す事がありました。
今回は、雑誌出版のお話とWebサイトについて考察したいと思います。

※今回の記事は、超大規模なUGCサイトやWebサービスなどには当てはまらない可能性があります。

自分のサイトのどこに何が書かれているか知っていますか?

僕は自分でSEOのブログを書いています。
記事のテーマも内容も、(時々使う)画像作成も、全部自分でやっています。
200記事弱のブログですが、自分のブログに何が書かれているか、は覚えています。

当たり前だ、と思われた方もいるかも知れませんが、今、この当たり前が当たり前ではなくなっている現状があるように感じています。
自分のサイトに何が書いてあるのか?を把握せず運用しているケースをよく見かけるようになりました。

コンテンツマーケティングや、それを支援する会社、ライターを集めやすい市場も形成されているので、そのパターンが増えて来たのだと思いますが、この状況はWebサイトとしては今後、より厳しくなっていく、と思います。

編集者不在のWebメディア

優秀なライター集めについての話題で盛り上がる事は多くありますし、そういった需要も多いのは分かります。
コンテンツ作成の代行があれば、それを活用し成果が出れば、もっとそこに投資するのはビジネスを行っているのであれば当然だと思います。

コンテンツを作る上で優秀なライターは必要不可欠だとも感じます。
でも、それだけでは必要条件を全て満たした事にはなりません。
優秀なライターによって良いコンテンツは作れても良いメディアを作る事はできないから、です。

雑誌を作る事場合に必要なスタッフとして、
ライター、カメラマン、DTPデザイナー(オペレーター)、(雑誌によっては)広告営業担当者、販促担当者、そして編集者がいます。

編集者は雑誌作りの現場責任者的なポジションです。
雑誌作りの現場では、ライターが納品した文章をそのまま掲載する事はあり得ません。
必ず編集者の目を通し、(他の要素と合わせて)雑誌からのメッセージにして読者に届けます。

その編集作業により、その雑誌から発信された情報に付加価値が持たせられます。
そして、この情報の付加価値をオリジナリティと認識していました。
Webサイト運用の現場で言われる付加価値と少し異なっているかも知れません。

苦戦を強いられているサイトの特徴

現在苦戦している多くのWebサイトは編集者不在の状態で運用している状態になっているのではないでしょうか?
たくさん記事を更新しているんだから仕方がない、ライターが書いたものをアップしているので、内容まで見ていない、という事情もあると思います。
ただ、コンテンツ作りに取り組んで、上手くいっていないメディアの多くは効率を優先した事で中身を見なくなっているように感じます。

サイト内に何のコンテンツがあるか分からない状態はSEOでもリスクになります。

  • 他サイト、自サイトと重複する内容の公開
  • 内容が薄く抽象的な情報の公開
  • テーマと無関係な情報の公開

これらは、少数であれば問題ありませんが数が増えるにつれてリスクが増してきます。
効率が上がった事で記事公開のペースが上がり、結果としてリスクが顕在化する速度も上がってしまいます。

昨年、低品質なコンテンツ、というGoogleからの警告が話題になりましたが、警告を受けたサイトを多数見ました。
コンテンツが原因でアルゴリズムによる大幅な検索トラフィック減少の事例も何度も見ました。

コンテンツが原因になっているペナルティやアルゴリズムによるトラフィックの減少は、コンテンツの修正、もしくは非公開やインデックスのコントロールで改善する事が多いです。

ただ、これらの対応によりペナルティなどからの回復を行っても、根本的な運用方針が変わらない限りはリスクは無くならないと感じています。

そこで昨年は、低品質コンテンツ系のペナルティを受けたサイトに関しては、SEOを受けた際に編集担当者を置くようにしてもらい、その担当者とサイトを運用する、という事を続けました。

編集担当者を置いてもらう事で、自分で決めたサイト運用方針に合わない(基準を満たさない)コンテンツはアップしなくなり、同じような内容を複数回公開するような事も無くなりました。
その内容が正しいかどうか?の裏取りをして掲載するようになったのでライターの質も向上しトラブルも少なくなったそうです。
また、伝わりにくい表現、癖のある文体も修正され文体に統一感が出た事で読みやすさが向上しました。

編集担当者がつく事で、ライターが納品した記事をそのまま公開する流れから、編集者が編集作業を行ったものを公開する流れに変わります。

サイトへの統一感が生まれると、そのサイトに情報がある事に意味が出てきます。
これはサイト運営においては今後数年間で、より大切な要素になってくると感じます。

総数を数えたわけではないので、あくまでも感覚値になりますが、統一感や人格が出ているサイトの方がリンクされやすい様に感じます。

雑誌作りはアナログな事が多かったが個を大切にしていた

ファン層の形成について触れましたが、ファンというのは「人」です。
出版の現場はアナログで、手間のかかる事を大切にしていました。

例えばサイト運用でいえばGoogleアナリティクスなどの解析ツールを用いてユーザーの動向を分析できますが、雑誌では、そうはいきません。
巻頭特集により売れ行きが変わるので、ある程度は部数で確認できますが、細かなニーズは読者アンケートハガキなどで把握するしかありません。

読者アンケートハガキにも送ってもらえる工夫が必要でアンケートの記入がしやすいか?
喜ばれるプレゼントが提供できているか?
など、色々な工夫をしていました。

僕が勤めている間にも何度かアンケートハガキのレイアウト変更が行われ、結構反応が変わったりしていました。
今でいうEFO(エントリーフォーム最適化)みたいな作業をハガキで行っている事になりますね。

それでも全体の数%程度のデータを取得できた状態にしかならないので完璧とは言えません。
それを補うために、編集会議を重ね、考えに考え抜いて読者の事を想像していました。
この作業は非常に重要で、よりリアルに、より個人に焦点をあてた方が結果として上手くいっていた様に感じます。

定期購読を行ってくれたり定期的にアンケートハガキをくれる方にコンタクトを取り座談会を行ったり、ヒアリングをしたり、もしていました。
お金と時間を使って少ない協力者を集め、彼ら彼女らに喜ばれるものを徹底して作りこんでいて、それが当たり前になっているのを覚えています。

「○○(雑誌名)読者は、こういうの好きだからプレゼントしたら喜ばれると思う」
「○○(雑誌名)読者には、こういう特集は見せられないね」

といったことが社内で普通に話されていましたし、当時はそれが普通だと思っていました。
あれから何年か経ちますが、この感覚が持てることはブランディングが成功している、という事なんじゃないかな、と改めて感じます。

ただ、当時、僕はこの効率が悪くサンプル数が少ない方法が信用できず「Webが進化すれば、この非効率な作業をなくせる」と考えており、結構生意気な事を言っており、何か勿体ない事をしたなぁ、と思っていますw
出版業界全体の傾向として雑誌の部数減少が話題になった時期で、市場が成長しまくっているWebと比較され凋落が話題になっていましたので、余計にそういった手法に疑問を持っていました。

出版社のに専門のWeb部門ができはじめる事が多い時期でしたので、色々と危機感を持って仕事をしていた現場の人は多かったのかも知れませんね。

デジタルの現場で改めて問われるアナログの力

Webサイト運用やSEOの現状を改めて見ていると、出版社に勤めていた時に実は大切な事をたくさん学んだんだな、と感じられるようになりました。

  • 人を見ること
  • ターゲットを明確にすること
  • 媒体としてオリジナリティを持つこと
  • 編集者視点を持つこと

これらは、コンテンツマーケティングが改めて見直されている現在の状況においても、コンテンツに寄り添うSEOの現場においても凄く重要な要素になっているように感じます。

その当時の上司に「雑誌はマスメディアではなくターゲットメディアだ」と教えられました。
特定のターゲット層に特化したメディアで、そのターゲットが求めているコンテンツこそが良いコンテンツである、と言われたのを覚えています。

コンテンツを見てくれた全員を満足させたり、影響を与えるコンテンツを作るのは難しいですが、特定のターゲットのみに特化して満足度の高いコンテンツを作る事は可能です。

今はまだ、そこまで重要性は高くないかも知れませんが、今後数年間で、このターゲットを決めることが凄く大切になっていくと予想しています。
ターゲットを決める、というのは都合の良いユーザーを浅く想像して作ることではなく、想定するユーザーの趣味趣向まで把握できるレベルになる事です。
データよりも個を重要視する方法でアナログではありますが、このアナログで再現性すら捨てたところにメディアとしての価値は宿るように思えます。

今回の記事のまとめ

アナログの力を発揮するためには効率的に作業を回すサイト管理者ではなく、サイトの価値を作り出す編集者が必要です。
以前、非効率だと感じていた読者ニーズの把握方法や、ターゲットとなる読者像作りなど、今改めて凄く価値のある事だと感じられるようになりました。

出版の現場では、個を凄く大切にしていましたし、編集ポリシーや、品質に徹底的にこだわっていました。
読者が、その雑誌をどういう環境で読むか?まで議論して色味を考えていた編集会議も思い出されます。

今、コンテンツの配信に取り組み、上手くいっていないと感じるサイトの運営者の方は、品質以外に

  • 自分のサイトには何があるか?
  • ターゲットは誰か?
  • 運営ポリシーは何か?

について是非とも考えてみて下さい。

2015年から数年間かけて、コンテンツ提供の市場が成熟してくればくるほど、コンテンツそのものの品質は当然として、サイトの編集力が重要になると思います。

コンテンツ制作はあるていど外注できても、その責任は公開したサイトにあります。
問題が起こってから「外注先の○○の不備で…」のような対応を取らずに済むようにしたいですね。

これから先、コンテンツ制作や提供する市場が大きくなる事に合わせて、SEOは編集者に寄り添い、コンテンツを検索エンジンが理解しやすい形にするための各種施策を考え実行する事が増えるでしょう。
そのためには、どんなコンテンツが評価されるのか?をしっかりと理解する事もまた重要になります。

最後に文中に出てきた「ターゲットメディア」について、当時の僕が読んで面白かった書籍がありますので紹介します。
興味のある方は是非とも読んでみて下さい。
少し古いですが、今のWebサイト運用に役立つポイントも結構あると思います。

ターゲット・メディア主義―雑誌礼讃

ターゲット・メディア主義―雑誌礼讃

吉良 俊彦 (著)
出版社:宣伝会議 (2006/04)
発売日:2006/04

追伸

久しぶりのブログ更新になります。
結局2014年は1度もブログを更新せず放置してしまいました。
2015年は、さすがにもう少し更新していきたいな、と考えておりますw

久々の更新なのに、これといったテクニックを紹介する訳でもなく、若かりし日の出来事を思い出しながら記事を書きました。
これは2014年に僕がSEOの現場で大切にしていた要素で、出版社に勤めていた頃に凄く似ているな、と感じました。
どんな経験も無駄にはなりませんね。

記事を書いていて「経験」について少し思ったのですが、この出版社勤務の経験は僕だけのオリジナルであり、他の誰かが真似する事は不可能です。

出版社に勤務し、(2007年頃の)クロスメディア論争、雑誌の凋落を垣間見れたのは、僕がその時間軸の中で過ごしたからであり、誰しもが身につけられる、理解できるものではありません。
でも、僕が経験していない事を、他の誰かは経験している訳で、それも立派な価値であり強みになるはず可能性が高いです。
SEOという文脈においては、そっちの方が遥かに直接的に役立つ経験かも知れません。

文中でオリジナリティについて触れましたが、そういう誰しもが持つオリジナリティを活かせる可能性がWebにはあると信じています。

他にない情報という意味のオリジナリティではなく、他の誰も真似できない、というオリジナリティを強みにしていきたいですし、そういうオリジナリティが上手に評価されるための手助けを、これからもSEOを通じて行っていきたいと思いました。